
最近自社近くに瀟洒な温泉施設ができた。一見奇異な感じがしたが、そうでもないことが少しずつわかってきた。
発端は一冊の本。中沢新一著「アースダイバー」(講談社版)である。内容は古代の地図を持って東京を散策するという刺激的なもので、読み進むと東京の町々の劇的な変貌の裏に野生の東京が見えてくるというものだ。64ページにはこうある。「神泉の谷は、死の領域に接した、古代からの聖地だったので、このあたりには聖(ひじり)と呼ばれた、半僧半俗の宗教者が住みついていた。彼らは泉の水をわかして「弘法湯」という癒しのお湯を、疲れた人々に提供していた。」なぬ。泉が湧いていただと。そーかそれで「神泉」なのか。で、いい水があったから茶の湯と関係が深い「松濤」という地名も隣接してるんだな。早速私は本に載っている石碑を求めて神泉の町をたどった。それは駅そばのローソン脇にあった。黒ずんだ石碑には[弘法大師 神泉湯道]と刻まれていた。明治19年とあるから100年以上昔に建てられた碑だ。なるほど、縄文の記憶がこの石碑によって受け継がれ、あの温泉施設として甦ったというわけか。何とも歓楽地渋谷らしい地霊の大展開だ。
そんな妙な一人合点をしながら、私は久しぶりに現代の聖地を象徴するラブホテル群のネオンを、神泉の谷間からしみじみと仰ぎ見た。
〔お〕